子供へ伝える「一塾」

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子供へ伝える『靖国神社』

靖国神社靖国問題

 立候補者がある程度出そろって熱を帯びてきた自民党総裁選挙が連日ニュースをにぎわせています。現職の菅総理大臣が出馬しないということで、自民党が政権与党のままであるという前提であれば新しい総理大臣を決める選挙とも言えます。そして、新総理大臣誕生の際によく取り沙汰されるのが、靖国神社参拝などの件です。なぜ総理大臣や閣僚の神社への参拝が問題になるのか。また終戦記念日である8月15日辺りになると、そのことについて周辺国がピリつくのか。なんとなくは察せますが、そもそも靖国神社について30代後半になった今でも詳細を知りえていない。
 将来、学校で習ったりニュースを見たりした子供に、偏った知識ではなく、歴史的事実とそれぞれの立場での解釈を偏見無しに説明してあげられるようにと今回の記事を残しておきます。以下4点について子供に伝えられるよう簡単にまとめておきたいと思います。

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靖国神社

 1.靖国神社と一般的な神社との違い
 2.靖国神社の歴史
 3.靖国問題の主な論点
 4.各国の主張と立ち位置

1.靖国神社と一般的な神社との違い

 まず件の靖国神社は我々が初詣や七五三詣でに行く神社とは異なります。後者の我々に親しみある神社とは【日本固有の宗教である神道の信仰に基づく祭祀施設。産土神天神地祇、皇室や氏族の祖神、偉人や義士などの霊などが神として祀られる[1]】とあり、簡単に言えば祭られているのは『神様』です。対して靖国神社は広くは護国神社というものに分類され、【国家のために殉難した人の霊(英霊)を祀るための神社[1]】、東京と神奈川を除く各道府県に建立されており、【道府県出身ないし縁故の戦死者、自衛官・警察官・消防士等の公務殉職者を主祭神とする[1]】。つまり祭られているのは殉職者の英霊、『人』なわけです。
 靖国神社は目的として【「国家のために一命を捧げられた方々の霊を慰め、その事績を後世に伝えること」[2]】があり、祭られる英霊には、古くは明治維新期の戊辰戦争佐賀の乱西南戦争から対外戦争である日清戦争日露戦争、太平洋戦争における戦死者、軍人だけでなく従軍看護師や女学生、軍事工場の工員など身分・勲功・男女の区別なく、前述の目的の元一律平等に祀られています。その数は246万人以上となります。
 つまり大きな違いは、祀られているのが『神様』か『人』かということ、目的が『信仰』と『殉職者の事績を後世へ伝える』であることなど大きく異なります。そして、靖国神社に祀られている対象とその目的が件の問題につながっているわけです。

2.靖国神社の歴史

 ・1896年 明治天皇により『招魂社』として建立
  国家のために尊い命を捧げられた人々の御霊みたまを慰め、その事績を永く後世に
  伝えることを目的に創建された神社[2]として創建。

 ・1879年 社号を『靖國神社』と改める
  「国を靖(安)んずる」という意味で、靖國神社には「祖国を平安にする」「平和
  な国家を建設する」という願いが込められています[2]。

 ・1946年 宗教法人法の単位宗教法人になる
  戦後の政教分離政策の推進により国家管理を離れることになります。

 

3.靖国問題の主な論点

 よく報道されてピリついているのは以下の2点が多いように思います。

1)政教分離の原則

 元々は国家で管理されていた靖國神社ですが、戦後GHQ指導で進められた政教分離政策によって宗教法人となり、国家管理を離れます。靖國神社が宗教法人となったことにより、日本国憲法第20条が定める政教分離原則が聞いてくるわけです。条文には【信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない(日本国憲法第三章第二十条)。】とあり、さらに【国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない(日本国憲法第三章第二十条三項)。】とあります。
 報道されるときの問題点はだいたい総理大臣や国務大臣などの公人がその肩書を持って公式に参拝する行為。そして玉串料(お布施みたいなもんと捉えます)を公的資金から拠出する場合です。これらの行為が先の条文が禁止する行為に抵触しているのではないかと問題視する見方があるということです。
 ちなみに2021年8月15日の終戦記念日において、菅総理大臣は参拝せずに代理人を通じて玉串料を”私費”で奉納。菅内閣の閣僚では小泉環境大臣と萩生田文科大臣、下村科学技術担当大臣の3人が参拝したと報じられました(8/15 日テレニュース24)。過去には中曽根総理大臣が行った、玉串料を公費で支出した参拝は2つの高等裁判所にて違憲という判決が出た事例もあります。
 そして同じ憲法二十条の二項に【何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない(日本国憲法第三章第二十条二項)。】とも書かれているので、公人の参拝問題のときに肩書を持たず私人として参拝する、玉串料の私費での奉納という行為の後ろ盾になっているのはこの条文なのかなと、今思いました。


2)極東国際軍事裁判における戦犯合祀の問題
 
 靖国神社には第二次世界大戦後の極東国際軍事裁判にて戦争犯罪人として裁かれた人々が合祀され、英霊として崇めていることが戦争を肯定的に捉えているとする見方があります。そのような場所を政府の人間が公式に参拝すると、見方はいろいろありますが、戦争被害にあった国の人々に不快感を与えるのではないかとザワつくわけですね。
 もちろん反対の立場もあります。戦争を肯定するということではなく、自国を守るために戦った人々を崇め、参拝して感謝と敬意を表するのも同じ国の国民としては当然の行為であるという見方です。

4.各国の主張と立ち位置

 8月15日の終戦記念日における日本の偉い人たちが参拝に訪れたり、玉串料の出所にザワザワしている印象があるのはやはり以下の2国ですね。

中華人民共和国

 1985年8月の中曽根首相の参拝以後は、「A級戦犯が合祀されている靖国神社に首相が参拝すること」は、中国に対する日本の侵略戦争を正当化することであり、絶対に容認しないという見解を表明[1]し続けています。
 日本の軍国主義にこそ侵略戦争の原因と責任があり、軍国主義の象徴であるA級戦犯を合祀する靖國神社を行政の最高責任機関である内閣閣僚が参拝して称えるような行為は問題であるという立場ですね。

・韓国

 「A級戦犯が合祀されている靖国神社に首相や閣僚が参拝すること」を問題視[1]しています。また、韓国は大戦中、日本に併合されていた期間になりますので、日本軍として徴兵され戦っていたので、靖国神社に合祀されている国民がいるというのが中国と異なります。そして韓国側の同意なく勝手に国民が合祀されていることに対し、合祀取り下げの訴訟が起こったりと、中国とは少し違った問題も抱えています。


 合祀の取り消しについては日本国内でも宗教の違いなどによって訴えがあるようでしたが、靖国神社は一貫して「天皇の意思により戦死者の合祀は行われたのであり、遺族の意思にかかわりなく行われたのであるから抹消をすることはできない[1]」との対応になるそうです。

まとめ

 靖國神社という場所の特殊性がよくわかりました。関係諸外国のみならず日本国内においても、様々な意見があり、歴史認識によって大きく主張が分かれます。つまり、子供に伝える場合にも、確定的な話し方をするのではなく、多角的な見方をして、なんなら一度日本と周辺各国を巻き込んだ近代史について話してあげるところから、親子で一緒に学んでいき、子供が自分の見解を見つけられるようサポートしてあげるのが一番かなと思いました。
 靖国問題として提起されているものは記述したものよりもずっと多くの事柄があります。それぞれ単一の答えが出るような問題ではないものの、事実や認識があいまいなものに対しては入ってくる情報に偏ることなく、しっかり調べて自己認識していくことが大切だと感じました。

【出典】
 [1]Wikipedia
 [2]靖國神社の由緒|靖國神社について|靖國神社